ょっとやってみる時はよく回るが買って来て五分もやればブラシの所がやけて[#「やけて」に傍点]もういけなくなる。
蓄音機の中の歯車でもじきにいけなくなるのがある。これは歯車の面の曲率などがいいかげんなためだか、材料が悪いためだかわからない。おそらく両方かもしれない。
このような似て非なるものを製する人の中には、西洋でできた品をだいたいの外形だけ見て、ただいいかげんにこしらえればそれでいいものだと思っているのがあるいはありはしまいか。ある人の話では電気の絶縁のためにエボナイトを使ってある箇所を真鍮《しんちゅう》で作って、黒く色だけをつけておいた器械屋があるという。これはおそらくただの話かもしれない。しかしそれと五十歩百歩のいいかげんさは至るところにあるかもしれない。
五十年前に父が買った舶来のペンナイフは、今でも砥石《といし》をあてないでよく切れるのに、私がこのあいだ買った本邦製のはもう刃がつぶれてしまった。古ぼけた前世紀の八角の安時計が時を保つのに、大正できの光る置き時計の中には、年じゅう直しにやらなければならないのがある。
すべてのものがただ外見だけの間に合わせもので、ほんとう
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