り付けてからまだ三年にもならないうちに二個までも同じ部分が破損するところを見ると、このスイッチのこしらえ方はあまりよくないと言わなければならない。もう少し作り方なり材料なりを親切に研究したのなら、これほどもろくできるはずはないだろうと思われた。銅板を曲げた角《かど》の所にはどの道かなり無理がいっているから、あとで適当になます[#「なます」に傍点]とか、あるいは使用のたびにそこに無理が繰り返されないように構造のほうをくふうするとか、なんとかしてほしいものだと思った。
 水道の断水とスイッチの故障との偶然な合致から、私はいろいろの日本でできる日用品について平生から不満に思っていた事を一度に思い出させられるような心持ちになって来た。
 第一に思い出したのが呼び鈴の事であった。今の住居に移った際に近所の電気屋さんに頼んで、玄関や客間の呼び鈴を取り付けてもらった。ところが、それがどうも故障が多くて鳴らぬ勝ちである。電池が悪いかと思って取り換えてもすぐいけなくなる。よく調べてみると銅線の接合した所はハンダ付けもしないでテープも巻かずにちょっとねじり合わせてあるのだが、それが台所の戸棚《とだな》の中
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