ごろ用があって花屋へ行って見たらすべての花は水々していた。昼過ぎに、遠くない近所に火事があったがそれもまもなく消えた。夕刊を見ながら私は断水の不平よりはむしろ修繕工事を不眠不休で監督しているいわゆる責任のある当局の人たちの心持ちを想像して、これも気の毒でたまらないような気もした。
このような事のある一方で、私の宅《うち》の客間の電燈をつけたり消したりするために壁に取りつけてあるスイッチが破損して、明かりがつかなくなってしまった。電燈会社の出張所へ掛け合ってみたが、会社専用のスイッチでなくて、式のちがったのだから、こちらで買ってからでないと付け換えてくれない。それでやむを得ず私は道具箱の中から銅線の切れはしを捜し出して、ともかくも応急の修理を自分でやって、その夜はどうにか間に合わせた。その時に調べてみるとボタンを押した時に電路を閉じるべき銅板のばねの片方の翼が根元から折れてしまっていたのである。
実はよほど前に、便所に取り付けてある同じ型のスイッチが、やはり同じ局部の破損のために役に立たなくなって、これもその当座自分で間に合わせの修理をしたままで、ついそれなりにしておいたのである。取
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