を読んだ時に、なんとなしに変な気持ちがした。今のついさきに思った事とあまりによく適応したからである。
それにしても、その程度の地震で、そればかりで、あの種類の構造物が崩壊するのは少しおかしいと思ったが、新聞の記事をよく読んでみると、かなり以前から多少|亀裂《きれつ》でもはいって弱点のあったのが地震のために一度に片付いてしまったのであるらしい。そのような亀裂の入ったのはどういうわけだか、たとえば地盤の狂いといったような不可抗の理由によるのか、それとも工事が元来あまり完全ではなかったためだか、そんな事は今のところだれにもわからない問題であるらしい。
それはいずれにしても、こういう困難はいつかは起こるべきはずのもので、これに対する応急の処置や設備はあらかじめ充分に研究されてあり、またそのような応急工事の材料や手順はちゃんと定められていた事であろうと思って安心していた。
十日は終日雨が降った、そのために工事が妨げられもしたそうで、とうとう十一日は全市断水という事になった。ずいぶん困った人が多かったには相違ないが、それでも私のうちでは幸いに隣の井戸が借りられるのでたいした不便はなかった。昼
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