面の峨々《がが》たる起伏の形容とも見られなくはない。「その長さ谿《たに》八谷《やたに》峡《お》八尾《やお》をわたりて」は、そのままにして解釈はいらない。「その腹をみれば、ことごとに常に血|爛《ただ》れたりとまおす」は、やはり側面の裂罅からうかがわれる内部の灼熱状態を示唆的にそう言ったものと考えられなくはない。「八つの門《かど》」のそれぞれに「酒船《さかぶね》を置きて」とあるのは、現在でも各地方の沢の下端によくあるような貯水池を連想させる。熔岩流がそれを目がけて沢に沿うておりて来るのは、あたかも大蛇《だいじゃ》が酒甕《さかがめ》をねらって来るようにも見られるであろう。
八十神《やそがみ》が大穴牟遅《おおなむち》の神を欺いて、赤猪《あかい》だと言ってまっかに焼けた大石を山腹に転落させる話も、やはり火山から噴出された灼熱した大石塊が急斜面を転落する光景を連想させる。
大国主神《おおくにぬしのかみ》が海岸に立って憂慮しておられたときに「海《うなばら》を光《てら》して依《よ》り来る神あり」とあるのは、あるいは電光、あるいはまたノクチルカのような夜光虫を連想させるが、また一方では、きわめてまれ
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