に日本海沿岸でも見られる北光《オーロラ》の現象をも暗示する。
出雲風土記《いずもふどき》には、神様が陸地の一片を綱でもそろもそろと引き寄せる話がある。ウェーゲナーの大陸移動説では大陸と大陸、また大陸と島嶼《とうしょ》との距離は恒同《こうどう》でなく長い年月の間にはかなり変化するものと考えられる。それで、この国曳《くにび》きの神話でも、単に無稽《むけい》な神仙譚《しんせんだん》ばかりではなくて、何かしらその中に或《あ》る事実の胚芽《はいが》を含んでいるかもしれないという想像を起こさせるのである。あるいはまた、二つの島の中間の海が漸次に浅くなって交通が容易になったというような事実があって、それがこういう神話と関連していないとも限らないのである。
神話というものの意義についてはいろいろその道の学者の説があるようであるが、以上引用した若干の例によってもわかるように、わが国の神話が地球物理学的に見てもかなりまでわが国にふさわしい真実を含んだものであるということから考えて、その他の人事的な説話の中にも、案外かなりに多くの史実あるいは史実の影像が包含されているのではないかという気がする。少なくも
前へ
次へ
全8ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング