その日暮しその年暮しになりやすい恐れのある官僚政治の管下から完全に救出して、もう少し安定な国家の恒久的機関を施定することが刻下の急務ではないかと思われる。そうすれば凶作問題なども自ずから解決の途につくはずであろう。
 凶作のみならず水害風害あるいは地震や火事の災害を根本的に除くためには、やはり同様な恒久的施設が必要である。健忘症の政治家や気まぐれな学界元老などの手に任せておくにはあまりに大切な仕事である。
 こういう見地から見て現在一番信頼の出来る施設は中央気象台とその配下にある海洋気象台のそれである。そこにはともかくも一般政治から独立した恒久的観測研究の系統が永い以前から確定されており、その上に当代の有名な学者の数々を聚《あつ》めているのであるから、この際思い切って気象台の観測事業の範囲を徹底的に拡張して、そうして前述のごときあらゆる天災の根本的研究とその災害に対する科学的方策の綜合的考究に努力せしめるのが最も時宜《じぎ》に適したものではないかと思われる。そうして、無理な注文かもしれないがもし出来ることなら、こうした機関はむしろ文部省の管轄からも独立させて、全く特殊な恒久的国家機関と
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