新春偶語
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)新玉《あらたま》の春
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和十年一月『都新聞』)
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新玉《あらたま》の春は来ても忘れられないのは去年の東北地方凶作の悲惨事である。これに対しては出来るだけの応急救済法を講じなければならないことは勿論であるが、同時にまた将来いつかは必ず何度となく再起するにきまっているこの凶変に備えるような根本的研究とそれに対する施設を、この機会に着手することが更に一層必要であろうと思われる。可憐《かれん》な都会の小学児童まで動員してこの木枯しの街頭にボール箱を頸《くび》にかけての義捐金《ぎえんきん》募集も悪くはないであろうが、文化的国民の同胞愛の表現はもう少し質実にもう少しこくのあるものであってもよいと思われる。肺炎になってしまってからの愛児の看護に骨を折るよりも、風邪を引かせぬ予防法、引いたときに昂じさせぬ工夫に一倍の頭を使う方が合理的である。
凶作の原因は大体においては明白である。稲の正当な発育には一定量の日照並びに気温の積分
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