持久的に系統的に行ってはじめて効果をあげることが出来るものであろう。それだのに、日本の政府が従来こうした大事な科学的な政道に如何に冷淡であったかは周知の事実である。また、国民の選良であるところの代議士達でこういう問題にいくらかでも理解をもっている人の如何に少数であったかということも知る人は知っている通りである。
凶作の原因となる気温異常には他にも色々な原因はあるとしても一つの因子としてこれと東北沿海の海水の温度異常との間に若干の相関があるらしいということは、我邦《わがくに》の学者の間ではもう少なくも二十年も前から問題となっていたことである。ただこの問題の決定に必要な十分な海洋観測の材料がないために問題はそのままに問題として残され、やがていつとなく忘れられていた。それが今年の凶作で急に焼木杭《やけぼっくい》に火がついた形である。もしも二十年前に時の政府が奮発して若干の設備を施しそうして今日まで根気よく観測を続けて来ていたのであったら、今頃までにはもうどうにか曲りなりにでも解決がついていたのではないかと想像される。
敢《あ》えて農作関係ばかりとは限らず、系統的な海洋観測が我邦のような海
前へ
次へ
全7ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング