乗じてトルコの駱駝隊《らくだたい》を襲撃し全滅させたという記事もある。その他各戦線にわたって天候のために利を得また損害を受けた実例は枚挙に暇《いとま》ないほどある。ことに飛行隊の活動などは著しく天気の影響を受けている事は日々の新聞記事に徴しても明らかである。
 ドイツ側は勿論、聯合軍側でも気象学者がどれだけ活動しているかについては寡聞《かぶん》にして何らの報告にも接しないが、ドイツのごとき国柄では平生から推して考えてもほぼ想像は出来る。必ずこの方面にもぬかりなくやっているに相違ない、敵国側の観測材料を得る事にも苦心しているかと想像される。ことにツェッペリンの襲英などに際しては気象状態に最も慎重な注意を払うは勿論であろう。それには英国側の観測が重要であるから、在英|独探《どくたん》中にはこの方の係りも必ずあるだろうと想像される。
 ついこの頃の雑誌で見ると、英国の気象局長ショー氏は軍事上に必要な顧問となるために同局の行政的事務を免除され、もっぱら戦争の方の問題に骨を折る事になったとある。これはむしろあまり遅きに過ぎると思われるが、いったい英国の流儀としては怪しむに足らぬかもしれない。ドイ
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