ツでは一八九九年以来高層気象観測所を公設し、ことにカイゼル自身がこの方に力瘤《ちからこぶ》を入れて奨励した。カイゼルの胸裡《きょうり》にはその時既に空中襲英の問題が明らかに画かれていたと称せられている。これに反して英国で高層観測事業が一私人ダインスの手から政府に移ったのはずっと後の事であった。また近頃エールシャイアのある地に航空隊の練習場を設けかかった。あらかじめ気象学者の意見を徴すればよいのに、工学者や軍人だけで土地を選定しいよいよ工事を始めてみると気象方面の不都合な点が出て来て中止する事となり、約五百万円くらいの金を棒に振ったという事である。『ネチュアー』の記者はこれについて大いに当局の迂愚《うぐ》を攻撃しているのは尤《もっと》もな事である。
近頃またアメリカでは飛行機で大西洋を飛び越し、運送船の力を借らず航空隊を戦場に輸送しようという計画がだいぶ真面目に研究されており、それについては大西洋の気象という事が重要な問題になるのである。この事については『ローマ字世界』の十二月号に詳しく述べるつもりであるから御参照を願いたい。
日本軍がシベリアへ出征するという場合でも、気象学上の知識
前へ
次へ
全5ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング