て三階から降りて来て手伝いました。いちばん高い枝につるすには梯子《はしご》が入用でした。あぶないと言ったがきかないで、スタルク嬢がつるしました。その夜の十一時の汽車で主婦《かみ》さんのむすこが帰って来るということでした。このむすこも娘も主婦さんの継子《ままこ》だそうです。むすこはエーベルフェルドの電気工場に勤めているそうで、それがワイナハトには久しぶりで帰るというので、この間じゅうから妹娘が贈物《ゲシェンク》する襟飾《えりかざり》を編んでいました。とうとうできあがらないとこぼしていました。都合で夕食後にバウムに灯《ひ》をつけました。きれいでした。室《へや》の片側へ机を並べて、皆一同の贈物が陳列してありました。二人の下女もそれぞれ反物をもらって喜んでいました。親子が贈物を取りかわし「ムッター」「ヘレーネ」とお互いに接吻《せっぷん》するのはちょっと不思議に思われました。主婦がピアノの前にすわって、みんなでワイナハトの歌をうたいました。雪のふるのがほんとうだそうですが、この晩は暴風雨のような雨が降ってひどい天気でした。記念にバウムの写真をとりたいと思って、町へマグネシウムを買いに出ましたら、
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