先生への通信
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鳩《はと》に豆を買ってやる

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)肥《ふと》った|尼たち《シュエスター》が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](明治四十三年一月、東京朝日新聞)
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     ヴェニスから

 お寺の鳩《はと》に豆を買ってやることは日本に限ることと思っていましたがここのサンマルコのお寺の前でも同じことをやっています。ただし豆ではなくてとうもろこしを細長い円錐形《えんすいけい》の紙袋につめたのを売っています。
 大道で鍋《なべ》を煮立たせて、ゆでだこを売っている男がいました。
 ヴェニスの町は朽ちよごれているが、それは美しく朽ちよごれているので壁のはがれたのも、ないしは窓からぶら下げたせんたく物までも、ことごとく言うに言われぬ美しくくすんだいい色彩を示しています。霜枯れ時だのに、美しい常磐木《ときわぎ》の緑と、青玉のような水の色とが古びた家の黄や赤や茶によくうつります。
 ゴンドラもおもしろく、貧しい女も美しく見えます。
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