[#地から3字上げ](明治四十三年一月、東京朝日新聞)
ローマから
ローマへ来て累々たる廃墟《はいきょ》の間を彷徨《ほうこう》しています。きょうは市街を離れてアルバノの湖からロッカディパパのほうへ古い火山の跡を見に参りました。至るところの山腹にはオリーブの実が熟して、その下には羊の群れが遊んでいます。山路で、大原女《おはらめ》のように頭の上へ枯れ枝と蝙蝠傘《こうもりがさ》を一度に束ねたのを載っけて、靴下《くつした》をあみながら歩いて来る女に会いました。角《つの》の長い牛に材木車を引かせて来るのもあれば、驢馬《ろば》に炭俵を積んで来るのもありました。みかんの木もあれば竹もあります。目と髪の黒い女が水たまりのまわりに集まってせんたくをしているそばには鶏が群れ遊び、豚が路傍で鳴いています。バチカンも一部見ましたが、ここの名物はうまい物ばかりのようであります。
[#地から3字上げ](明治四十三年二月、東京朝日新聞)
ベルリンから(一)
今ここのベルリイナア座で「タイフン」という芝居をやっています。作者はハンガリー人で、日本の留学生のことを仕組んだものだそうです
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