っぱり無いのではない、自分の捜し方が不充分なのであった。
丁度忙しい時であったから家族を見せに遣《や》った。
その店は卸し屋で小売はしないのであったが、強いて頼んで二つだけ売ってもらったそうである。どうやらランプの体裁だけはしている。しかし非常に粗末な薄っぺらな品である。店屋の人自身がこれはほんのその時きりのものですから永持ちはしませんよと云って断っていたそうである。
どうして、わざわざそんな一時限りの用にしか立たないランプを製造しているのか。そういう品物がどういう種類の需要者によって、どういう目的のために要求されているかという事を聞きただしてみたいような気がした。何故もう少し、しっかりした、役に立つものを作らないのか要求しないのか。
この最後の疑問はしかしおそらく現在の我国の物質的のみならず精神的文化の種々の方面に当て嵌《は》まるものかもしれない。この間に合せのランプはただそれの一つの象徴であるかもしれない。
二つ買って来たランプの一つは、石油を入れてみると底のハンダ付けの隙間から油が泌《し》み出して用をなさない。これでは一時の用にも立ちかねる。これはランプではない。つまり
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