れより百|尋《ひろ》以上も深く掘れ窪んでいます。この海峡は大洋から瀬戸内海に通ずる入口の中で一番広いから内海に出入りする海水も主にここから出入りするので、潮流もなかなか早く通例一時間三、四海里くらいの速度であります。このような流れが海の底の敷居を越える時には、丁度|橋杙《はしくい》などの下流が掘れくぼむと同じような訳で、敷居の下流のところがだんだんに深くなったのであろうという説があります。
 このほか名高い瀬戸や普通の人の知らぬ瀬戸で潮流の早いところは沢山ありますが、しかし、何といっても阿波《あわ》と淡路《あわじ》の間の鳴門《なると》が一番著しいものでしょう。この海峡は幅がわずか十五町くらいで、しかもその内に浅瀬の部分があるので深いところは幅五町くらいなものです。この瀬戸の両側では潮の満干が丁度反対になるので、両側の海面が一番喰い違う時は高さが五尺ほど違います。
 ここに出した地図で左側の陸地が阿波、右側の陸地が淡路です。Aの辺は深さが四、五十尋ですが、Bの辺は浅くて十尋以下です。海の底の泥などは潮流に洗い流されて岩があらわれています。図は上げ潮の時の有様ですから、潮流はDの方からAB
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