を通ってCの方へ流れて行きます。ABとCの間に波形の模様を描いたのは流れの早い部分の有様を示したものです。ABの辺では流れの早さは最も盛んな時で一時間十海里くらい、Cの辺でもあまりこれに劣りません。しかし上流のDの辺では一時間二、三海里くらいのものです。流れの最も強い下流の方には方々直径七、八|間《けん》ほどの漏斗《じょうご》形の大渦巻が出来ます。漁船などこれに巻込まれたら容易に出られなくなるそうです。汽船などでも流れの急でない時を見計らってでなければ通りません。図は前にも云った通り上げ潮の時の有様ですが、下げ潮の時には反対に図の下側の方へ同じような流れと渦巻が出来ます。
これからだんだん暑くなりますから、田圃《たんぼ》の小流れのようなところで、板片《いたぎれ》などで水を堰《せ》き止めて早吸の瀬戸や鳴門の模様をこしらえてみるのも面白かろうと思います。
[#地から1字上げ](大正七年五月『ローマ字少年』)
底本:「寺田寅彦全集 第六巻」岩波書店
1997(平成9)年5月6日発行
底本の親本:「寺田寅彦全集 文学篇」岩波書店
1985(昭和60)年
初出:「ローマ字少年
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