味を知る人はおそらく一人もないかもしれない。
 小浅間《こあさま》への登りは思いのほか楽ではあったが、それでも中腹までひといきに登ったら呼吸が苦しくなり、妙に下腹が引きつって、おまけに前頭部が時々ずきずき痛むような気がしたので、しばらく道ばたに腰をおろして休息した。そうしてかくしのキャラメルを取り出して三つ四つ一度に頬張《ほおば》りながら南方のすそ野から遠い前面の山々へかけての眺望《ちょうぼう》をむさぼることにした。自分の郷里の土佐《とさ》なども山国であるからこうしたながめも珍しくないようではあるが、しかし自分の知る郷里の山々は山の形がわりに単調でありその排列のしかたにも変化が乏しいように思われるが、ここから見た山々の形態とその排置とには異常に多様複雑な変化があって、それがここの景観の節奏と色彩とを著しく高め深めているように思われた。
 まわりに落ち散らばっている火山の噴出物にも実にいろいろな種類のものがある。多稜形《たりょうけい》をした外面が黒く緻密《ちみつ》な岩はだを示して、それに深い亀裂《きれつ》の入った麺麭殻《ブレッドクラスト》型の火山弾もある。赤熱した岩片が落下して表面は急激
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