円筒でその周囲を囲んである。その中に雨水がたまっていた。自分はその水中に右の人差し指を浸してちょっとその鋲の頭にさわってみた。
 この火山の機巧の秘密を探ろうと努力している多くの熱心な元気な若い学者たちにきわめて貴重なデータを供給するために、陸地測量部の人たちが頻繁《ひんぱん》な爆発の危険に身命をさらしながら爆発の合い間をねらっては水準測量をしている。その並み並みならぬ労苦は世人の夢にも知らない別世界のものである。そんなことを無意識に考えたためでもあろうか、この水準点ベンチマークの鋲の丸いあたまに不思議な愛着のようなものを感じてちょっとさわってみないではいられなかったのである。
 水準点のすぐそばに木の角柱が一本立っている。もうだいぶ長く雨風にさらされて白くされ古びとげとげしく木理《もくめ》を現わしているのであるが、その柱の一面に年月日と名字とが刻してある。これは数年前京都大学の地球物理学者たちがここにエアトヴァスの重力偏差計をすえ付けて観測した地点を示す標柱だそうである。年々に何百人という登山者のうちで、こんな柱の立っているのに気のつく人はいくらもないかもしれない。まして、その柱の意
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