変化を研究すべき天文学者の仕事はこれから始まるので、学者達は毎晩曇った空を眺めては晴間を待ち明かしている事であろう。
五 幼い Ennui
夏休み中に一度は子供等を連れて近くの海岸へ日返りの旅をするのが近年の常例になっていた。その以前には一週間くらい泊りがけで出かける事にしていたが、そうするときっときまったように誰かが転地先で病気をした。ある年は母がひどい腸|加答児《カタル》に罹って半年ほど後までも祟られた。またある年は父子三人とも熱が出たり腸を害したりして、不安心な怪しげな医者の手にかからねばならなかった。そのうちに知人のある者は保養地で疫痢《えきり》のために愛児を亡くしたりした。それでもう海水浴というものが恐ろしくなって、泊りがけに行く気にはなれなくなってしまった。それでも一度も行かないのは子供等に気の毒なような気がするので、日返り旅行という事を考えついてそれにきめていたのである。子供等はそれでも十分に満足していたようである。
今年は自分が病気で行かれない事になった。のみならず二人の男の子も健康に故障があって旅行はあまり望ましくなかったので、とうとうどこへも行か
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