小さな出来事
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)私の宅《うち》の庭は

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)方三|間《げん》ばかりの空間

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)さんしち[#「さんしち」に傍点]の葉を
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      一 蜂

 私の宅《うち》の庭は、わりに背の高い四《よ》つ目垣《めがき》で、東西の二つの部分に仕切られている。東側の方のは応接間と書斎とその上の二階の座敷に面している。反対の西側の方は子供部屋と自分の居間と隠居部屋とに三方を囲まれた中庭になっている。この中庭の方は、垣に接近して小さな花壇があるだけで、方三|間《げん》ばかりの空地は子供の遊び場所にもなり、また夏の夜の涼み場にもなっている。
 この四つ目垣には野生の白薔薇をからませてあるが、夏が来ると、これに一面に朝顔や花豆を這《は》わせる。その上に自然に生える烏瓜《からすうり》も搦《から》んで、ほとんど隙間のないくらいに色々の葉が密生する。朝戸をあけると赤、紺、水色、柿色さまざまの朝顔が咲き揃っているのはかなり美しい。夕方が来る
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