には、実験室内でできるだけ気流をならしておいて、その中で養ってあるとんぼにいろいろの向きからいろいろの光度の照明をして実験することもできなくはない。しかし実験室内に捕われたとんぼがはたして野外の自由なとんぼと全く同じ性能をもつと仮定してよいかどうかという疑問は残る。
 いちばん安全な方法はやはり野外でたくさんの観測を繰り返し、おのおのの場合の風向風速、太陽の高度方位、日照の強度、その他あらゆる気象要素を観測記録し、それに各場合の地形的環境も参考した上で、統計的分析法を使用して、各要素固有の効果を抽出することであろうと思われる。
 現在測候所で用いているような風速計では感度が不十分であるから、何か特別弱い風を測るに適した風速計の設計が必要になるであろうと思われた。また一方とんぼの群れが時には最も敏感な風向計風速計として使われうるであろうということも想像された。
 風速によってとんぼの向きの平均誤差が減少するであろうと想像される。その影響の量的数式的関係なども少し勉強すれば容易に見つかりそうに思われる。アマチュア昆虫生態学者《こんちゅうせいたいがくしゃ》にとっては好個のテーマになりはしない
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