三斜晶系
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)土佐《とさ》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)前日|新宿《しんじゅく》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和十年十一月、中央公論)
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     一 夢

 七月二十七日は朝から実に忙しい日であった。朝起きるとから夜おそくまで入れ代わり立ち代わり人に攻められた。くたびれ果てて寝たその明け方にいろいろの夢を見た。
 土佐《とさ》の高知《こうち》の播磨屋橋《はりまやばし》のそばを高架電車で通りながら下のほうをのぞくと街路が上下二層にできていて堀川《ほりかわ》の泥水《どろみず》が遠い底のほうに黒く光って見えた。
 四つ辻《つじ》から二軒目に緑屋《みどりや》と看板のかかったたぶん宿屋と思われる家がある。その狭い入り口から急な階段を上がると、中段の踊り場に花売りの女がいた。それを見ると妙に悲しかった。なぜかわからない。
 大きな日本座敷の中にベンチがたくさん並んでいる。そこで何か法事のような儀式が行なわれているか、あるいはこれから行な
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