京はだらしなく無設計に横に擴がつて、美しい武藏野を何處迄もと蠶食して行くのである。こんなにしなくても市中の地の底へ何層樓のアパートメントでも建てた方がよささうに思はれる。さうしないと、おしまひには米や大根を地下室の棚で作らなければならない事になるかも知れない。
伯林の郊外で未だ家のちつとも建たない原野に、道路だけが立派に磨いた土瀝青張りに出來上つて、美術的なランプ柱が行列して居るのを、少し馬鹿々々しいやうにも感じたのであつたが、やつぱりあゝしなければかうなるのは當り前だと思はれた。
想ふに「場末の新開町」といふ言葉は今の東京市の殆んど全部に當嵌まる言葉である。
十一月二日、水曜。澁谷から玉川電車に乘つた。東京の市街が何處迄も/\續いて居るのにいつもながら驚かされた。
世田ヶ谷といふ處が何處かしら東京附近にあるといふ事だけ知つて、それがどの方面だかは今日迄つい知らずに居たが、今此處を通つて始めて知つた。成程兵隊の居さうなといふ事が町に並んで居る店屋の種類からも想像されるのであつた。
駒澤村といふのが矢張り此の線路にある事も始めて知つた。頭の中で離れ/\になつて何の連絡もなかつ
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