寫生紀行
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)題目《テーマ》は

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)室内の「|死んだ自然《ナチュール・モルト》」

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)乘り※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]す

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)こせ/\した
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 去年の春から油畫の稽古を始めた。冬初め頃迄に小さなスケッチ板へ二三十枚、六號乃至八號の畫布へ數枚を描いた。寒い間は休んで今年若葉の出る頃から此の秋迄に十五六枚か、事によると二十枚程の畫布を塗り潰した。此等のものゝ大部分はみんなうちの庭や建物の一部を寫生したものである。
 靜物も描かない譯ではなかつた。併し花を活けて寫生しようと思ふとすぐに萎れたり、又此れに反して勢のいゝのは日毎の變化が餘りにはげしくて未熟なものゝ手に合はなかつた。壺や林檎も面白くない事はないが、
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