しつぶ》で隠蔽《いんぺい》される。これも言わば精神的視角の問題である。この見やすい道理を小学校でも中学校でもどこでも教わらない人が多数いるような気がする。
 自分は高等学校の時先生からたいへんにいいことを教わった。それは、太陽や月の直径の視角が約半度であること、それから腕をいっぱいに前方へ伸ばして指を直角に曲げ視線に垂直にすると、指一本の幅が視角にして約二度であるということであった。それでこの親譲りの簡易測角器械さえあれば、距離のわかったものの大きさ、大きさのわかった物の距離のおおよその見当だけは目の子勘定ですぐにつけられる。これも万人が知っていて損にならないことであるが、木を見ることを教えて森を見ることは教えない今の学校教育では、こんな「概略な見当」を正しくつけるようなことはどこでも教えないらしい。高価な精密な器械がなければ一尺と百尺との区別さえもわからないかのように思い込ませるのが今の教育の方針ではないかと思われることもある。これも考えものである。
 視角の概念とその用途は小学校でも楽に教えこまれる。これを教えておくと世の中に無用なけんかの種が一つ二つは減るであろうと思われるのであ
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