ころから政治と科学とが没交渉ではなかったと言ってもよい。
よくは知らないが現在のソビエト・ロシアの国是にも科学的産業興振策がかなり重要な因子として認められているらしい。たとえば飛行機だけ見てもなかなかばかにならない進歩を遂げているようである。おそらくロシアでは日本などとちがって科学がかなりまで直接政治に容喙《ようかい》する権利を許されているのではないかと想像される。
日本では科学は今ごろ「奨励」されているようである。驚くべき時代錯誤ではないかと思う。世界では奨励時代はとうの昔に過ぎ去ってしまっているのではないか。他国では科学がとうの昔に政治の肉となり血となって活動しているのに、日本では科学が温室の蘭《らん》かなんぞのように珍重され鑑賞されているのでは全く心細い次第であろう。
その国の最高の科学が「主動的に」その全能力をあげて国政の枢機に参与し国防の計画に貢献するのが当然ではないかと思われるのに、事は全くこれに反するように思われるのである。科学は全く受動的に非科学の奴僕《ぬぼく》となっているためにその能力を発揮することができず、そのために無能視されてしかられてばかりいるのではないか
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