決して少なくないのである。中にはよくよく考えてみると国家国民の将来のために実に心配で枕《まくら》を高くして眠られないようなことさえあるのである。
このような状態を誘致したおもな原因は、政治というものと科学というものとがなんら直接の関係もないものだ、という誤った仮定にあるのではなかろうかと思われる。昔の政事に祭り事が必要であったと同様に文化国の政治には科学が奥底まで滲透《しんとう》し密接にない交ぜになっていなければ到底国運の正当な進展は望まれず、国防の安全は保たれないであろうと思われる。
これは日本と関係のないよその話ではあるが、自分の知るところでは一九一〇年ごろのカイゼル・ウィルヘルム第二世は事あるごとに各方面の専門学術に熟達したいわゆるゲハイムラート・プロフェッソルを呼びつけて、水入らずのさし向かいでいろいろの科学知識を提供させて何かの重要計画の参考としていたようである。カイゼルは当時の雄図の遂行にできうるだけ多くの科学を利用しようとしたのではないかと想像される。その結果から得た自信がカイザーをあの欧州大戦に導いたのかもしれないという気がする。それはとにかく、ドイツではすでにその
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