前項「灸治」について高松《たかまつ》高等商業学校の大泉行雄《おおいずみゆきお》氏から書信で、九州|福岡《ふくおか》の原志兔太郎《はらしずたろう》氏が灸の研究により学位を得られたと思うという知らせを受けた。右の原氏著「お灸《きゅう》療治」という小冊子に灸治の学理が通俗的に説明されているそうである。一見したいと思っているがまだその機会を得ない。その後にまた麻布《あざぶ》の伊藤泰丸《いとうやすまる》氏から手紙をよこされて、前記原氏のほかに後藤道雄《ごとうみちお》、青地正皓《あおじまさひろ》、相原千里《あいはらせんり》等の各医学博士の鍼灸《しんきゅう》に関する研究のある事を示教され、なお中川清三《なかがわせいぞう》著「お灸の常識」という書物を寄贈された、ここに追記して大泉氏ならびに伊藤氏に感謝の意を表したいと思う。
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     八 黒焼き

 学生時代に東京へ出て来て物珍しい気持ちで町を歩いているうちに偶然出くわして特別な興味を感じたものの一つは眼鏡橋《めがねばし》すなわち今の万世橋《まんせいばし》から上野《うえの》のほうへ向かって行く途中の左側に二軒、辻《つじ》を
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