読んでみると、皮膚の一部をつねったりひねったりするだけで、腹部の内臓血管ことにその細動脈が収縮し、同時に筋や中枢神経系に属する血管は開張すると書いてある。灸をすえるのでも似かよった影響がありそうである。のみならず、焼かれた皮膚の局部では蛋白質《たんぱくしつ》が分解して血液の水素イオン濃度が変わったり、周囲に対する電位が変わったり、ともかくもその付近の細胞にとっては重大な事件が起こる。それが一つの有機体であるところの身体の全部にたとえ微少でもなんらかの影響のないはずはなさそうである。
それがある病気にどれだけきくかはまた別問題であるがそれは立派に一つの研究問題になる事であり、そうしてまさに日本の医者生理学者の研究すべき問題である。それだのに不思議なことには従来灸治の科学的研究をして学位でも取ったという人は、あるかもしれないがあまりよく知られていないようである。今にドイツとか米国とかでだれかが歌麿《うたまろ》や北斎《ほくさい》を発見したように灸治法の発見をして大論文でも書くようになれば日本でも灸治研究が流行をきたすかもしれないと思われる。
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(「螢光板」への追記)
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