れたのが近所の国語の先生の奥さんであった。家伝の名灸でその秘密をこの年取った奥さんが伝えていたのである。なんでも紙撚《こより》だったか藁《わら》きれだったか忘れたが、それでからだのほうぼうの寸法を計って、それから割り出して灸穴《きゅうけつ》をきめるのであるが、とにかく脊柱《せきちゅう》のたぶん右側に上から下まで、首筋から尾※[#「骨+低のつくり」、第3水準1−94−21]骨《びていこつ》までたしか十五六ほどの灸穴を決定する。それに、はじめは一度に三つずつ一週間後から五つずつというふうにだんだんすえる数を増して行って、おしまいには二十ぐらいずつすえるのである。なかなかここいらは合理的である。
上から下へだんだんにすえて行くと痛さの種類がだんだんに少しずつ変わって行くのが妙である。上のほうのは言わば乾性、あるいは男性的の痛さで少し肩に力を入れて力んでいればなんでもないが腰のほうへ下がって行くと痛さが湿性あるいは女性的になって、かゆいようなくすぐったいような泣きたいような痛さになる。動かすまいと思っても腰をひねらないではいられないような気持ちがする。同じ刺激に対する感覚が皮膚の部分によって
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