ればならないと思われるのである。

     七 灸治

 子供の時分によくお灸《きゅう》をすえると言っておどされたことがある。今のわれわれの子供にはもうお灸が何だか知らないのが多いようである。もぐさを見たことのない子供も少なくないであろう。お灸がいかなるものであるかを説明してやると驚いているようである。
 小さい時分にはおどされるだけでほんとうにすえられたことはなかったようである。水泳などに行って友だちや先輩の背中に妙な斑紋《はんもん》が規則正しく並んでいて、どうかするとその内の一つ二つの瘡蓋《かさぶた》がはがれて大きな穴が明き、中から血膿《ちうみ》が顔を出しているのを見て気味の悪い思いをした記憶がある。見るだけで自分の背中がむずむずするようであった。なんのためにわざわざこんないやなことをするのか了解できなかった。十二三歳のころ病身であったために、とうとう「ちりけ」のほかに五つ六つ肩のうしろの背骨の両側にやけどの跡をつけられてしまった。なんでもいろいろのごほうびの交換条件で納得させられたものらしい。
 大学の二年の終わりに病気をして一年休学していた間に「片はしご」というのをおろしてく
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