無用の長物という不名誉の役目を引き受けているのであろう。
 数の勘定には十進法の数字だけあればそれでよいというのは、言わば机の三本足を使う流儀であって、これに一見無用な干支を添えるのは用心棒を一本足した四本足を採用する筆法である。むだはむだでも有用なむだであるとも言われる。
 十進法というのは言わば単式の数え方であって十干だけを用いると同等である。甲を一、乙を二、丙を三と順々に置き換えてしまえば、たとえば二十三と言う代わりに乙丙と言っても文字がめんどうなだけで理屈は同じである。これに反して干支《かんし》法は言わば複式の数え方で、十進法と十二進法との特殊な結合である。甲子《きのえね》を一とし乙丑《きのとうし》を二とすれば甲戌《きのえいぬ》は十一であり丙子《ひのえね》は十三になる、少しめんどうなだけに、それだけの長所はあるのである。
 おもしろいことには、偶然ではあろうが、太陽黒点の週期が約十一年であって、これが十干の十年と十二支の十二年との中間に当たっている。それで、太陽黒点と関係のあるらしい週期的な気象学的あるいは気候学的現象の異同が自然に干支と同じような週期性を示すことがしばしば起こ
前へ 次へ
全99ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング