それだから年号と年数と干支とを併記して或《あ》る特定の年を確実不動に指定するという手堅い方法にはやはりそれだけの長所があるのである。為替《かわせ》や手形にデュープリケートの写しを添えるよりもいっそう手堅いやり方なのである。
年の干支と同様に日の干支でもこれを添えることによって日のアイデンティフィケーションがほとんど無限大の確実さを加える。これに七曜日を添えればなおさらである。たとえば甲子《きのえね》の日曜日は一年に一つあることとないこととあるのである。
干支を廃し、おまけに七曜も廃するか、あるいはある人たちの主張するように毎年の同月日を同じ日曜にしてしまうというしかたは、一見合理的なようで実は存外そうでないかもしれない。
机や椅子《いす》の足は何も四本でなくても三本でちゃんと役に立つ、のみならず四本にするとどれか一本は遊んでいて安定位置が不確定になる恐れがあるというのは物理学初歩で教わることである。しかしその合理的な三本足よりも不合理な四本足が最も普通に行なわれているのは何ゆえであろうか。この問題はあまり簡単ではないが、ともかくも四本の一本がまさかのときの用心棒として平時には
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