孤立した状態で長い年月を閲《けみ》して来た国の民族の骨相には、やはりその方言といっしょにこびりついた共通な特徴があるのではないかという疑いも起こるのであった。
また別なとき同じ食堂でこのかいわいの銀行員らしい中年紳士が二人かなり高声に私にでも聞き取れるような高調子で話しているのを聞くともなく聞いていると、当時の内閣諸大臣の骨相を品評しているらしい。詳細は忘れたが結局大臣には人相が最も大切な資格の一つであって、この資格の欠けている大臣は決して長続きしないといったようなことを一人が実例をあげて主張していた。相手は「まあ卜筮《ぼくぜい》よりは骨相のほうがましだろう」と言っているようであった。この二人の話を聞いてからなるほどそんな事もあろうかと思って試みに当代ならびにその以前の廟堂《びょうどう》諸侯の骨相を頭の中でレビューしながら「大臣顔」なるものの要素を分析しようと試みたのであった。
ついせんだってのあのベーブ・ルースの異常な人気でも、ことによると彼の特異な人相に負うところが大きいのかもしれない。
こうした大食堂の給仕人はたいていそろそろ年ごろになろうという女の子であって、とにかくあま
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