る。丸竹の柄《え》の節の上のほうを細かく裂いて、それを両側から平面に押し広げてその上に紙をはり、その紙は日月の部分蝕《ぶぶんしょく》のような形にして、手もとに近いほうの割り竹を透かした、そういうものが、少なくもわれわれの子供時代からの団扇《うちわ》の定義のようなもので、それ以外のものは言わば変種のようなものであった。こういう昔の型には、研究してみたらおそらくいろいろな物理学的の長所があるだろうと思われる。このほうが風を生ずる点で、効率《エフィシェンシー》がいいという説もあるがこれは研究してみないとわからない。しかし撓《しな》いぐあいはたしかにこのほうが柔らかで、ぎごちなくないように思われる。これに反して木製の柄《え》で割り竹を無理にしめつけたのは、なんとなく手ごたえが片意地で、柄の付け根で首がちぎれやすい。
 そんな理屈はどうでもよいとして、こうまでも「流行」という、えたいの知れぬ人工的非科学的な因子が、送風器械としては本来科学的であるべき器具の設計に影響を及ぼすものかと驚かれるくらいである。しかし、考えてみると、団扇や扇のようなものは元来どこまでが実用品で、どこまでが玩弄品《がんろう
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