が、いわば安全弁のような役目をして気持ちよく折れてくれるので、その身代わりのおかげで肋骨《ろっこつ》その他のもっとだいじなものが救われるという話である。
 地震の時にこわれないためにいわゆる耐震家屋というものが学者の研究の結果として設計されている。筋かい方杖《ほうづえ》等いろいろの施工によって家を堅固な上にも堅固にする。こうして家が丈夫になると大地震でこわれる代わりに家全体が土台の上で横すべりをする。それをさせないとやはり柱が折れたりする恐れがあるらしい。それで自分の素人《しろうと》考えでは、いっその事、どこか「家屋の鎖骨」を設計施工しておいて、大地震がくれば必ずそこが折れるようにしておく。しかしそのかわり他のだいじな致命的な部分はそのおかげで助かるというようにすることはできないものかと思う。こういう考えは以前からもっていた。時々その道の学者たちに話してみたこともあるが、だれもいっこう相手になってくれない。
 しかし今度自分の子供の災難が動機になってもう一ぺんこういう考えを練り直してみたくなった。どうも人間のこしらえたものはとかく欠点だらけであるが、天然のものは何を見ても実に巧妙にでき
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