十歳くらいの女の子とが枯枝を拾うていたからこれに上根岸《かみねぎし》までの道を聞いたら丁寧《ていねい》に教えてくれた。不折《ふせつ》の油画《あぶらえ》にありそうな女だなど考えながら博物館の横手|大猷院尊前《だいゆういんそんぜん》と刻した石燈籠の並んだ処を通って行くと下り坂になった。道端に乞食が一人しゃがんで頻《しき》りに叩頭《ぬかず》いていたが誰れも慈善家でないと見えて鐚一文《びたいちもん》も奉捨にならなかったのは気の毒であった。これが柴とりの云うた新坂なるべし。※[#「虫+召」、第4水準2−87−40]※[#「虫+僚のつくり」、第4水準2−87−82]《つくつくほうし》が八釜《やかま》しいまで鳴いているが車の音の聞えぬのは有難いと思うていると上野から出て来た列車が煤煙を吐いて通って行った。三番と掛札した踏切を越えると桜木町で辻に交番所がある。帽子を取って恭《うやうや》しく子規《しき》の家を尋ねたが知らぬとの答|故《ゆえ》少々意外に思うて顔を見詰めた。するとこれが案外親切な巡査で戸籍簿のようなものを引っくり返して小首を傾けながら見ておったが後を見かえって内に昼ねしていた今一人のを呼び起
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