官を要するので、器械の発達につれて人間も発達しなければ間に合わない。大和魂《やまとだましい》だけで器械を使ったのでは、第一器械もこわれるが、場合によっては自身の命も危ういのである。精密器械を作るのでも最後の仕上げは人間の感官によるほかはないような場合が多い。こういう点で、この細字書きのレコードは単に閑人《ひまじん》の遊戯ばかりともいわれない。考えようによってはランニングや砲丸投げなどのレコードよりもより多く文化的の意義があるかもしれない。体力だけを練るのは未開時代への逆行である。
タイピストの一九二九年のレコードは一分に九十六語でこれはフランスの某タイプ嬢の所有となっている。これなども神経のはたらきの可能性に関するものである。
ロスアンゼルスのアゼリン嬢は三十六秒間に八平方メートルの面積をきれいに掃除《そうじ》したというレコードを取った。こういうのは「掃除した」か「しない」かの審査がむずかしそうである。掃除は早いが畳がいたんだり障子|唐紙《からかみ》へ穴をあけるのでは少なくも日本の女中の登用試験では落第であろう。
八十歳の老人でできるだけ長時間ダンスを続ける、という競技の優勝者ブ
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