かったであろう。
ベルギー人のメニエ君は一枚のはがきに一万七千百三十一語を書き込んでレコードを取った。これを書きあげるのに十四年かかったそうである。平均一年に千二百二十三語強、一日に三語ないし四語の割合である。面積一平方ミリに一語くらいの勘定になるようである。日本でも米粒の表面に和歌を書く人があるが、これに匹敵する程度の細字と思われる。聞くところによると、米粒へ文字を書くには、米粒を手のひらへのせて、毎日暇さえあればしみじみとながめている、するとその米粒がだんだんに大きく見えて来ておしまいには玉子のように、また盆のように大きく見えてくる、その時にまつ毛を一本抜いて、それに墨汁《ぼくじゅう》を浸し「すらすらと書けばよい」という話である。真偽はとにかく、これと似た事は、精密器械などをあつかう人のしばしば経験するところである。また、一秒の十分の一というような短い時間でも天体観測の練習などしてみると、だんだんに長いものに思われてくるのである。
器械文明が発達すれば、精密なことは器械がしてくれるから人間はだんだん無器用になってもいいかというに、そうではなくて精密な器械を使うにはやはり精密な感
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