ーキンス君は六時間と十一分というレコードを取った。もっと若い仲間でのレコード七十九時間と三十分というのはウィーンのウィリー・ガガヴチューク君の手に帰した。三昼夜と七時間半も踊りつづける間に、睡眠はもちろん不可能であるが、食事や用便はどういうふうにしたものか聞きたいものである。
 これに似たのでは八十二時間ピアノをひき通したというのがある。この男の商売が屠牛業《とぎゅうぎょう》であるのがおもしろい。しかしこれにはずっと以前に百十時間というレコードがあったはずだから、何かコンディションが違っていることと思われる。この話は井原西鶴《いはらさいかく》の俳諧大矢数《はいかいおおやかず》の興行を思いださせる。
 これらの根気くらべのような競技は、およそ無意味なようでもあるが、しかし人間の気力体力の可能限度に関する考査上のデータにはなりうるであろう。場合によってはある一人のこういう耐久力のいかんによって一軍あるいは一国の運命が決するようなことがないとも限らない。
 最も変わったレコードとしては、アメリカのコーラスガールで、接吻《せっぷん》の際における心臓鼓動数の増加が毎分十五という数字を得ているのが
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