ていたら、「樹《き》静かならんとすれど風やまず……」という、あの小学読本で教わった対句がふいと想い出された。
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参らせん親は在《おわ》さぬ新茶哉[#地から1字上げ](昭和七年七月、渋柿)
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曙町より(十)
プラタヌスの樹蔭で電車を待っていると、蕎麦《そば》の出前を持った若い娘が、電柱に寄せかけてあった自転車を車道へ引き出した。
右の手は出前の盆を高くさし上げたまま、左の手をハンドルにかけ、左の足をペダルに掛けて、つっと車を乗り出すと同時にからだを宙に浮かせ、右脚を軽く上げてサドルに腰をかけようとしたが、軽い風が水色模様の浴衣《ゆかた》の裾《すそ》を吹いて、その端が危うくサドルに引っかかりそうになった。
まっ白な脛《はぎ》がちらりと見えた。
女は少しも騒がないで、巧みに車のつりあいを取りながら、静かに右脚をもう一遍地面に下ろした。
そうして、二度目には、ひらりと軽く乗り移ると同時に、車輪は静かにすべるように動きだした。
そうして、電車線路を横切って遠ざかって行った。
ちょっと歌麿の絵を現代化した光景で
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