あった。
 朱塗りの出前の荷と、浴衣の水色模様は、この木版画を生かすであろうと思った。
 これとは関係のないことであるが、「風流」という言葉の字音が free, frei, franc などと相通ずるのはおもしろいと思う。
 実際、風流とは心の自由を意味すると思われるからである。[#地から1字上げ](昭和七年九月、渋柿)
[#改ページ]

   曙町より(十一)


「墨流し」の現象を、分子物理学的の方面から、少しばかり調べてみていたら、だんだんいろいろのおもしろいことがわかって来た。
 それで、墨の製法を詳しく知りたくなって、製造元を詮議《せんぎ》してみると、日本の墨の製造所は、ほとんど全部奈良にあることがわかった。
 一方で、鐘に釁《ちぬ》るというシナの故事に、何か物理的の意味はないかという考えから、実験をしてみたいと思って、半鐘の製造所を詮議すると、それがやはり奈良県だということがわかった。
 こんなことがわかったころに、ちょうど君は奈良ホテルに泊まって鹿の声を聞いていたのである。
 今年今月は不思議に奈良に縁のある月であった。
 奈良へ出かけなければならないことになるかもしれな
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