堂で、天ぷらの昼飯を食っていた。
 隣の席に、七十余りのおばあさんが、これは皿の中のビーフカツレツらしいものを、両手に一つずつ持った箸《はし》の先で、しきりにつっついているが、なかなか思うようにちぎれない。
 肉がかたくて、歯のない口では噛めないらしい。
 通りがかりの女給を呼んで何か言っている。
 そうして、箸で僕の膳《ぜん》の上の天ぷらを指ざし、また自分の皿の上の肉を指ざし、そうして皿をたたきながら何かしら不平を言っているようである。
 女給は困った顔をして、もじもじしている。
 僕はすっかり気の毒になって、よっぽど自分の皿の上の一尾の海老《えび》を取ってこの老人の皿の上に献じたいという力強い衝動を感じたが、さてどうもいよいよとなると、周囲の人に気兼ねして、つい実行の勇気を出しかねた。
 やがて老人は長い杖《つえ》をついて立ち上がったが、腰は海老のように曲がっていた。
 僕はその時なんとなく亡き祖母や母のことを思い出すと同時に、食堂の広い窓から流れ込む明るい初夏の空の光の中に、一抹《いちまつ》の透明な感傷のただようのを感じた。
 食卓の島々の中をくぐって遠ざかる老人の後ろ姿をながめ
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