うと一種の凄味《すごみ》をさえ感じさせられる。
これと反対に、すこぶる好々爺《こうこうや》な白猫がやって来る。
大きな顔に不均整な黄斑が少しあるのが、なんとなく滑稽味《こっけいみ》を帯びて見える。
「ボウヤ」は、この「オジサン」が来ると、喜んでいっしょについてあるくのである。
今年の立春の宵に、外から帰って来る途上、宅《うち》から二、三丁のある家の軒にうずくまっている大きな白猫がある。
よく見ると、それはまさしくわが親愛なる「オジサン」である。
こっちの顔を見ると、少し口を開《あ》いて、声を出さずに鳴いて見せた。
「ヤア、……やっこさん、ここらにいるんだね。」
こっちでも声を出さずにそう言ってやった。
そうして、ただなんとなくおかしいような、おもしろいような気持ちになって、ほど近いわが家へと急いだのであった。
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淡雪や通ひ路細き猫の恋[#地から1字上げ](昭和五年三月、渋柿)
[#ここで字下げ終わり]
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[#図7、挿し絵「猫」]
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*
桜の静かに散る夕、うちの二人の女の子が二重唱をうたっている。
名高
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