灌木《かんぼく》も、みんなきれいに樹皮をはがれて裸になって、小枝のもぎ取られた跡は房楊枝《ふさようじ》のように、またささらのようにそそけ立っていた。
それがまた、半ば泥に埋もれて、脱《のが》れ出ようともがいているようなのや、お互いにからみ合い、もつれ合って、最期の苦悶《くもん》の姿をそのままにとどめているようなのもある。
また、かろうじて橋杭にしがみついて、濁流に押し流されまいと戦っているようなのもある。
上流の谿谷《けいこく》の山崩れのために、生きながら埋められたおびただしい樹木が、豪雨のために洗い流され、押し流されて、ここまで来るうちに、とうとうこんな骸骨《がいこつ》のようなものになってしまったのであろう。
被服廠《ひふくしょう》の惨状を見ることを免れた私は、思わぬ所でこの恐ろしい「死骸の磧《かわら》」を見なければならなかったのである。[#地から1字上げ](大正十二年十二月、渋柿)
[#改ページ]
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ある日。
汽車のいちばん最後の客車に乗って、後端の戸口から線路を見渡した時に、夕日がちょうど線路の末のほうに沈んでしまって、わずかな雲に夕映えが残ってい
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