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棄てた一粒の柿の種
生えるも生えぬも
甘いも渋いも
畑の土のよしあし
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日常生活の世界と詩歌の世界の境界は、ただ一枚のガラス板で仕切られている。
このガラスは、初めから曇っていることもある。
生活の世界のちりによごれて曇っていることもある。
二つの世界の間の通路としては、通例、ただ小さな狭い穴が一つ明いているだけである。
しかし、始終ふたつの世界に出入していると、この穴はだんだん大きくなる。
しかしまた、この穴は、しばらく出入しないでいると、自然にだんだん狭くなって来る。
ある人は、初めからこの穴の存在を知らないか、また知っていても別にそれを捜そうともしない。
それは、ガラスが曇っていて、反対の側が見えないためか、あるいは……あまりに忙しいために。
穴を見つけても通れない人もある。
それは、あまりからだが肥《ふと》り過ぎているために……。
しかし、そんな人でも、病気をしたり、貧乏したりしてやせたために、通り抜けられるようになることはある。
まれに、きわめてまれに、天の焔《ほのお》
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