には、鰻のいる穴の中へ釣り針をさしこんで、鰻の鼻先に見せびらかす方法がある。
これらはよほど主動的であるが、それでも鰻のほうで気がなければ成立しない。
次には、鰻の穴を捜して泥《どろ》の中へ手を突っ込んでつかまえる。
これは純粋に主動的な方法である。
最後に鰻掻《うなぎか》きという方法がある。
この場合のなりゆきを支配するものは「偶然」である。[#地から1字上げ](大正十二年六月、渋柿)
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無地の鶯茶《うぐいすちゃ》色のネクタイを捜して歩いたがなかなか見つからない。
東京という所も存外不便な所である。
このごろ石油ランプを探し歩いている。
神田や銀座はもちろん、板橋|界隈《かいわい》も探したが、座敷用のランプは見つからない。
東京という所は存外不便な所である。
東京市民がみんな石油ランプを要求するような時期が、いつかはまためぐって来そうに思われてしかたがない。[#地から1字上げ](大正十二年七月、渋柿)
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(『柿の種』への追記) 大正十二年七月一日発行の「渋柿」にこれが掲載されてから、ちょうど二か月後に関
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