ごとに生長して、そうして鳳仙花とは思われないほどに大きく美しく花を着けた。
そうしてその花の種は、今でもなお、年々に裏庭の夏から秋へかけてのながめをにぎわすことになっている。
この一|些事《さじ》の中にも、霊魂不滅の問題が隠れているのではないかという気がする。[#地から1字上げ](大正十一年十一月、渋柿)
[#改ページ]
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切符をもらったので、久しぶりに上野音楽学校の演奏会を聞きに行った。
あそこの聴衆席にすわって音楽を聞いていると、いつでも学生時代の夢を思い出すと同時にまた夏目先生を想い出すのである。
オーケストラの太鼓を打つ人は、どうも見たところあまり勤めばえのする派手な役割とは思われない。
何事にも光栄の冠を望む若い人にやらせるには、少し気の毒なような役である。
しかし、あれは実際はやはり非常にだいじな役目であるに相違ない。
そう思うと太鼓の人に対するある好感をいだかせられる。
ロシニのスタバト・マーテルを聞きながら、こんなことも考えた。
ほんとうのキリスト教はもうとうの昔に亡《ほろ》びてしまって、ただ幽《かす》かな余響のようなものが、わず
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