ドイツでは、発動機を使った飛行機の使用製作を制限された。
すると、ドイツ人はすぐに、発動機なしで、もちろん水素なども使わず、ただ風の弛張《しちょう》と上昇気流を利用するだけで上空を翔《か》けり歩く研究を始めた。
最近のレコードとしては約二十分も、らくらくと空中を翔けり回った男がある。
飛んだ距離は二里近くであった。
詩人をいじめると詩が生まれるように、科学者をいじめると、いろいろな発明や発見が生まれるのである。[#地から1字上げ](大正十一年八月、渋柿)
[#改ページ]
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シヤトルの勧工場《かんこうば》でいろいろのみやげ物を買ったついでに、草花の種を少しばかり求めた。
そのときに、そこの売り子が
「これはあなたにあげましょう。私この花がすきですから」
と言って、おまけに添えてくれたのが、珍しくもない鳳仙花《ほうせんか》の種であった。
帰って来てまいたこれらのいろいろの種のうちの多くのものは、てんで発芽もしなかったし、また生えたのでもたいていろくな花はつけず、一年きりで影も形もなく消えてしまった。
しかし、かの売り子がおまけにくれた鳳仙花だけは、実にみ
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